ヌシアルハナ・ハルノヨ 感想

インディーズゲーム「ヌシアルハナ・ハルノヨ」感想。序盤はネタバレなし。

 

ヌシアルハナ・ハルノヨ (rocotsu.main.jp)

 

ツイッターに設置している匿名メッセージツールに、双子の弟が攻略対象のゲームがあると情報を頂いたことをきっかけにプレイ。製作は露骨(あきばれ)さん。

 

とある「メイカ」の「ブンケ」に産まれ、存在を忌まれた双子。

支え合って生きてきた2人だったが、双子の姉である主人公が代々伝わる「キンシンコン」の為に、「ホンケ」に嫁ぐことになる……というのがストーリー。

自分のことを知っている人がこの文章を読めば、趣味との合致っぷりに驚くことだろう。全文嬉しいことしか書いていない。血なんて濃ければ濃いほど良いですからね。

5人の攻略対象も全員が血縁という徹底ぶり。男女入り混じっているのもかなり嬉しいポイント。

事前の情報だけでかなり高い期待を抱いてプレイしたが、大満足のゲームだった。

 

舞台となる家は何度も「狭く堅く暗い」一族であると称され、それと同様に画面や音楽も暗い雰囲気を作り出していた。鎖された空間から垣間見るように、僅かに覗く背景も、薄く滲む文字も統一感があり、インディーズゲームの作り込まれた世界観を堪能出来る一作だった。

閉鎖的な因習と血への拘りを感じさせ、登場人物の立場や思惑についても筋を持って描かれている。主人公の攻略対象別の思想の変遷も、変わらない点もしっかりしており、また登場人物間に生まれる感情が恋愛に限らない点も素晴らしい。こういうゲームがやりたいんだよ! と思わせてくれるような作品だった。

双子の姉弟というニッチな性癖のオタクからしても、カツラとカズラの間には「双子の姉弟」間でしか出来ない発言や描写が多く見られて嬉しかったです。

 

以下ネタバレでサクッとキャラ・エンド別の感想。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗く狭い家での地獄の関係性しか好きじゃねえな!!!!!

登場人物全員近親! 細かな家系図設定、似通った顔立ち、近親婚のデメリット、お家争い勢力闘争、好き勝手に噂する周囲の人間……近親に対する並々ならぬ拘りが感じられる、本当に全てが嬉しいゲームだった。

家の人間は皆瞳が小さいが主人公は外の血が入った子どもの為瞳が大きい、同じような顔が揃う中での異分子だという描写がどうしようもなくて本当に好きだ。

1番の目当ては双子の弟のカズラだったが、他のルートもルートごとに違う独自の味わいがあって良かった。特にサツキルートは白眉の出来。

攻略順は悩んだものの「ツバキ→サツキ→チガヤ→アザミ→カズラ」の順でプレイ。その順番でざっくり感想。

 

1人目 ツバキ

所謂真相ルートに近そうな立ち位置だが、ホームページでエンド数が明かされていることだしまあ大丈夫だろう……と思いプレイ。特殊ENDは全てツバキの介入の末のENDだということには途中から気が付いたが、その要素もあってツバキからプレイして良かったと強く感じた。

主人公の衣裳かわいいけど豪快な乳だな……と感じていたら速攻で「娼婦のようで下品だ、誘惑する為の阿呆な色仕掛け」と指摘されるのかなり面白かったし、登場人物の価値観が伺えて良かった。こういう描写があったり、近親相姦が畜生として扱われていたりするのが逆に登場人物の気質の異常性が引き立っていて良かったですね。

ツバキルートのカツラは淡々としていて、弟を思いながらもいろいろと諦めてしまっているという印象。

ツバキは2次元のキャラクターとして見ればそう複雑には見えない(攻略対象の中だとかなり素直にカツラに好意を向けているし、行動指針がハッキリしている。人物別小話もかなりわかりやすい)けれど、カツラからすると意味がわからなくて恐ろしい存在だというのはそうだろうな~……とも思った。力があるけど力が無くて、それでも持てる物を最大限使って愛した女だけは手に入れる。乙女ゲームのヒーローとしてメチャクチャ魅力的だ。

ツバキはあとカズラとの過去話が好きだな。一世一代のプロポーズの相手が弟だったの、さすがに少し同情してしまう。それ以外でも色々なキャラクターの感情を一身に担う、裏主人公的な立ち位置でしたね。さすが次期当主様や!

ベストED「刻む春」、な、何がベストやねん!!!!! ツバキにとってだけだろ!!!!! と叫んでしまった。最初に見たのがこれなの、高カロリーすぎるだろう。カズラの傷を椿で上書きし、憎しみという強い感情を一身に受ける。いや、ツバキにとってはベストかもしれないが、そんな……そんなことって……。
ノーマルEND「人形遊び」、全然こっちもツバキ大勝利でワロタ。憎んでなんてやるものかという小さな反抗をツバキが見抜けないはずもないし、心を殺したまま身体は自由に出来るの、そりゃ悪くないでしょうね。
特殊ED「愛し妻」、これもツバキ大勝利ではあるけど、カツラにとってもそう悪くは無い気がして良かったですね。到底許される訳がないのに、カツラのこれまでの生き方だとなんだかんだ絆されそうというか。ツバキではこれが一番好き。

 

2人目 サツキ

カズラ以外は順番にやることに決め、次はツバキの妹であるサツキ様をプレイ。

ひらがなの多い喋り方とは裏腹に棘のある成句。しかし根本は賢くて気高くて、愛に溢れたお方。少し舌足らずだけど透き通っていて、芯のあるお声なのかな~と想像してしまった。

サツキ様ルートはこのゲームの中でも随一の面白さだった。END分岐は強く納得感があり、どのENDもサツキ様がお力を振るっていて、きちんとカツラを救えていて。何よりも二人の幼い頃の逢瀬、唯一の友人であるという点と、「ツバキの子を産む為に嫁いできたのに、彼との子を産んだらサツキは殺されてしまう」という設定が本当に天才……。

近親婚が掟だというなら「予備」はツバキの腹としての予備でもあるだろうな(他ルートとかでもツバキと結婚させられるENDもあるのかな?)と思いながらプレイしていたのですが、それは本編では仄めかされるだけでしたね。ツバキ視点人物小話でのみ明かされていたはず。まあカツラが死んだり逃げたりするENDではそうなることもあるのかもしれない……。

サツキとカツラの愛も、狭い家の中よりももっと狭い檻の中で、閉鎖的に形作られたもので、経緯の通りに歪んでいるけれど、だからこそいっとう純粋で美しいものに感じたな。
ベストEND「終焉」、なんて美しいのでしょうか……。全てを壊して、同性の愛で血を絶やす。あのさあ普通にこれが一番良いと思うわ。こんな家燃やして滅ぼそう(いつもの)。ゲームの中でも随一の、ベストと言えるEND。こんなん付き従いたいに決まってるだろ~!
ノーマルEND「籠の鳥」、長年火事を起こす気だったの良いな~。あと3日で火種が溜まり、何かをすることが出来たのでしょう。そこにおあつらえ向きの短刀まで現れたとなればこうするしかないよな!!!! カツラの悲願を歪んだ形で叶える。儚いものでありながら、爽やかな予感に溢れる、こちらも美しいENDでした。
特殊END「修羅場」兄妹ガチ憎悪奪い合い修羅場良すぎる!!!! どうにもならない終わりをサツキの手で与えるというのも一つの答え。ツバキにとっても一生の傷と敗北でしょうし、正しくサツキENDという感じでしたね。

 

3人目 チガヤ

これまでのルートであまり登場することがなかったのでどういうお方かわからずにプレイ。
BGMがゴージャスでめちゃくちゃ良い! これは只者では無いのでは……と思ったが、予想に反してかなり無力で哀れな男だった。それはそれで良い。

家のしがらみに囚われていて、誰よりも力が無いからこそ暴力を振るうしかない人。

とはいえカツラと嫌な方向に噛み合った性格だなーと感じたし、距離を近付ける切欠があくまでもツバキへの恨みによる連帯なのも良かった。あとは家の中で力が無いというだけで、外に出れば充分に認められる人物であるというのも良かったな。もうちょっとツバキ以外に目を向けよう!!!!!
ベストEND「暴虐の鎖」、逃避行END。自分が好きなカップリングが逃避行を夢見ていたけれど成せなかったカップリングなので、なんだか感慨深くなってしまった。貞淑そうな装いの立ち絵の後、スチルで傷だらけの肉体が映るというの、ニクい演出だ。
ノーマルEND「ちまなこ」は、双子でお揃いにしてくれてありがとう……。
特殊END「隠れ鬼」、拷問スチル! やはりツバキには敵わない様を見せつけられるというのもなんだかんだ彼らしくて良かったですね。

 

4人目 アザミ

物語的にどういった立ち位置になるのかわからずにルートを進めたが、近親婚の末の子どもとは……! 家の身勝手さを象徴するようなキャラクターでしたね。

ずっと「女」に苦しめられて、辛い思いをしてきて、それでも自分の力を示そうと足掻く。狭い家の中で諦めず、かなり努力をしてきた点がチガヤとは違うけれど、それも確かな力を持って生まれることが出来たからなのだろうなと思うと業が深い……。

アザミは、生まれも振る舞いも見た目もそうですけど、何よりも無知強姦のシーンがエロすぎて、ちょっとエロすぎたしか言えないですね。女嫌いの少年が何もわからずに、男への感情だけで女を強姦するの、良すぎるだろう……。
ベストEND「唯一の人」、あのあのあの本当にエロいです。事を成した、成功させたアザミは少し大人になったようで、また別の色香を纏っていて……。あくまでも恋愛感情なんて無くて、アザミの望みは認められることだけなのに、自分を唯一狂わせるのはカツラだけ。それを自分の口で言っちゃえるのも危うくも色気があってかなり好きなENDでした。跪くスチルも嬉しすぎる~……。
ノーマルEND「咎人」、これは唯一そんなに~ってエンドかも。明確な罪すぎて裁かれてもあんまりだったなあ。
特殊END「とどのつまり」、アザミとサツキの結婚わりとベストエンドでワロタ←よくはないだろ。気付く方が自然に思えるけど、だからこそベストENDの味わいが増すENDでしたね。

 

5人目 カズラ

大期待の双子の弟! これまでのルートでもカズラはカツラの生きる理由になっていて、離れる場合でもいつも申し訳なく思っていたところから、二人の絆は伺えていたけれど彼自身のルートに入っても良い描写ばかりでした。すごく「姉と弟」を感じることが出来て満足です。

オープニングからカツラに対して愛情と狂気を向けていたカズラだったけど、カズラはひどく真摯に、家族として、唯一の片割れとしてカツラを想っていたのだろうなあという。

自分は姉の為に頑張って立ち向かっているのに、姉は謝るだけで何も行動してはくれない。それは賢い処世術だと頭ではわかっているけれど、自分の行動は何なのか。姉も父の姿を見てきたのではなかったか。それなのになぜ、姉ばかりが評価されるのか。かなり辛い心情を抱えたキャラクターだけど、それでも最終的に姉のことをきちんと愛しているのが嬉しかった……。姉を愛して、全て姉の為に振舞っているというのに、立場の差異に対する不満も臆面なく口にしているのが、素直さと矛盾を感じさせてすごく良かったです。半身に対する信頼と、下の弟であるという意識と少しの我儘さがあって、「双子の弟」らしさを強く感じられる発言が多く、最高でした。

彼はこれまでの生活でもうとっくに狂ってしまっていて、境界が曖昧になっていて、カズラにとってのカツラは恋愛ではないけれど一番の半身で そんな状況で始まる行為と、それを贖罪で受け入れる姉……
うれしすぎるだろう
なあ
うれしすぎるだろう……

特にベストEND「かすがい」は本ッッ当に最高でした。行為が後悔の残る悍ましいものだったとしても、子どもは確かな愛の証明で。そこまでしないと戻らなかったボタンは一体どこから掛け違えてしまっていたのか。全ての発言が「おねえちゃんと弟」といった雰囲気で本当に本当に良かったですし、子を成しながらも違う道を歩む双子も大好きなので本当に刺さりました。正気に戻ったカズラが真摯に愛を伝えることで、カズラの愛は狂気に拠るものではなかったとわかるのも良い。てかやっぱ不貞で子を成してもバレないのって双子の特権だからさ。やはり世の男女双子はどんどん子作りしていくべきだと思いましたね(帰ってください)

ノーマルEND「種明かし」は、そこ描かないのかー!! と思わされる、余韻のあるENDでしたね。どんな場合でも弟の方が処女先取りしてんの嬉しい。ツバキ全然好きだけどカズラルートだと急にざまあ見やがれ! という感情になってしまう、なんでだ。
特殊END「忘れ形見」はちょっとあっさり。だけどノーマルENDと対になるスチルが正に双子! で嬉しかったですね。

カズラルートでは現在のカズラの姿の立ち絵が見られないのは少し悲しかったけど、だからこそベストENDで見られたカズラとカツラの鏡合わせのようなスチルがめちゃくちゃ嬉しかったです。

 

 

全編通してかなり楽しめたし他作品も絶対にやるぞ! という気持ちになれたゲームだった。インディーズゲームのアンテナは弱い自覚があるので、しっかりこの辺りの情報も収集していきたいな……。

しかし18禁追加パッチが非公開になっているタイミングでプレイしてしまったことはかなり心残りだ。いつか再公開されることを願う。楽しかった!